中国で工場その他の移転や立ち退き問題が発生する主な原因は中国の土地制度と中国の政治・経済体制にあります。この基本的な問題以外に、土地使用権の取得に関する契約の不備に起因することもあります。
1.中国の土地制度と使用権・所有権
立ち退きや移転が要求される一つの原因は日系企業の工場用地は日系企業が土地の使用権だけしか持っておらず、土地の所有権は持っていないということです。これは中国の土地制度で中国の土地の所有権は国家または農民集団に帰属するという原則に基づいています。農民集団が有する土地の使用権は非農業用の用途にあてることができないので、実際には以下の方法で土地の使用権を得ることになります。
(1) 行政割り当てによって土地使用権を得る方法:これは国が企業に対して土地を割り当て、無期限かつ無償で使用を認めるものです。ただし、この権利は第三者に譲渡することも、担保に提供することもできません。目下、商業目的などに利用する土地は、行政割当により取得することはできません。
(2) 有償かつ期限付きで国から土地使用権の払下げを受ける方法:この方法では土地使用権の譲渡も担保権の設定も可能です。この場合は国家土地管理機関に対して土地使用権の払い下げ金を納付し、使用期間中は土地使用料を払います。日系企業などは主としてこの方法により土地使用権を取得しています。
(3) 土地の賃貸契約を結ぶ方法:土地の賃貸契約を締結することによって土地使用権を賃貸する方法です。
2.公共利益を優先した移転や立ち退き
中国の土地の所有権は国家に帰属していますので、公共利益に供する場合は、中国政府は一定の補償を支払えば土地使用期限内であっても土地および土地上の建物の回収が可能となっています。この種の立退きは拒絶したとしても裁判所の支持を得るのは困難です。社会主義市場経済体制の中国では公共の利益が最優先します。従って進出地域・工場立地の選定は可能な限り十分かつ広範囲な、また将来的な発展方向までも検討した事前調査を行った上で決めることが大切です。但し、公共利益に供されない場合は、立退き業者と協議をすることが可能です。
3.日系企業の土地使用権の取得方法の不備による移転や立ち退きの問題
移転や立ち退き問題を避けるため、土地使用権に関して下記の点に留意が必要です。
(1) 土地使用権の有償譲渡を受ける際の留意点
土地使用権の有償譲渡を受ける契約相手が国有地使用権の譲渡契約をする権利を有する者であるかどうかの確認が第一です。基本的には外国企業と国(県級以上の人民政府土地管理部門)との間で国有土地使用権払い下げ契約を結び土地使用権の有償譲渡を受けます。契約当事者になれない郷(町)レベルの相手とこの土地使用権譲渡契約をしたために契約自体が無効になった例もあります。また土地使用権を持っている企業からの使用権の再譲渡を受ける際には関係機関での確認と関係証拠書類の入手などが必要です。
(2) 中国企業と合弁会社を設立し、中国側が土地を出資する場合の留意点
合弁会社を設立する場合に中国側企業が土地を現物出資するケースがあります。この場合には現物出資対象の土地が国家より有償土地使用権譲渡を受けたものであれば問題がありません。しかし合弁相手の国有企業や元国有企業の出資する土地が行政割り当てにより土地使用権を入手した土地であれば、会社の設立前に土地使用権の有償譲渡の手続きをさせる必要があります。このことは非常に重要なことですから土地管理部門で確認を行う必要があります。
(3) 中国で移転や立ち退きをする場合の留意点
中国で移転や立ち退きをせざるを得なくなった場合には、代替地の問題、移転費用の補償問題などの多くの複雑な問題や手続きが発生します。さらには多くの中国の関係機関と煩雑な長期にわたる交渉・手続きが必要となりますので、工場立地などに関する土地の調査、所有権譲渡契約および登記などの手続きなど詳細は、土地問題を専門とする弁護士やコンサルタントへご相談されることをお勧めします。