1.契約の作成
取引の成立すなわち契約の締結にあたっては、契約書を作成して取引条件の詳細や債権・債務関係を明確にしておくことが必要です。注文書に双方が署名および/または捺印することでも契約は成立しますが、相手方の義務不履行(債務不払い)時に相手方と交渉したり、裁判を起こす場合等、「何かあった時」の拠り所となるのが契約書ですので、注文書程度の内容では用を足さず、最低限以下の点には留意する必要があります。
(1)契約書は、相手の会社の代表者が会社名義にて署名捺印することにより契約の有効性を確保します。しかし会社によっては、購買部長などに購入の全権を委譲していることがありますので、契約権限の移譲について相手の会社の経営者などに良く確認した上で契約することが必要です。
(2)支払期限、支払手段、支払方法等の決済条件を明確に規定します。
(3)不当なクレームを防止するために、商品の規格、品質等の仕様を明確に規定するとともに、検収や保証、クレーム期限については具体的な期間を定めておくことが必要です。
(4)権利義務・守秘義務条項、解約事由、期限の利益喪失事由、違約金条項、不可抗力条項等を明確に規定します。
(5)担保条件として、債権者代位権・詐害行為取消権・相殺・所有権留保・代物弁済について明記します。
2.代金決済の方法
中国国内での決済方法は以下のようなものがあります。
(1)現金決済:前払い、後払い、代金引換渡し(COD)
(2)送金決済:文書為替、電信為替
(3)小切手:発行地と同一の手形交換所に属する地域内でしか通用しません。
(4)銀行保証小切手:銀行が支払いを保証した小切手です。保証銀行は決済資金を支払人から事前に確保しているため不渡りのリスクはありません。
(5)銀行引受手形:銀行保証小切手と同様に、手形引受銀行は事前に支払人から決済資金を確保しているため、裏書譲渡手形を含め、偽造された手形でない限り不渡りのリスクはありません。
(6)一般商業手形:銀行による支払保証の付いていない一般の手形です。小切手同様発行地と同一の手形交換所に属する地域内でしか通用しません。
3.債権保全策
(1)法的には個人保証および法人保証とも可能ですが、保証人の資産の裏付けや抗弁権の問題があり、実際には確実な担保とはならないと考えた方がよいようです。特に、中国の政府機関・公的機関は担保法により保証人になることはできないので注意が必要です。
(2)物的担保は、債務不履行の場合に担保物権を金銭換価して債務弁済の優先権を取得できます。金銭評価は市場価格を参考にすることになっていますが、現実には明確な基準が無いという大きな問題がある上に、登記手続や実行手続が法的に未整備の状態でもあり、確実な回収手段とは言えないようです。
(3)未収問題を回避する対策として、社内で総合的な販売代金回収システムを構築しておくこと、例えば事前の取引先別契約基準を設けること、契約後であっても契約更新時の見直しを行う、経営状況のチェック体制を作るなどの努力が必要です。
4.全般的留意事項
(1)中国系、日系に関わらず、信用情況(支払い能力)が疑わしい相手先については、必ず事前に信用調査を実施し最新の財務状況を把握するとともに、相手先の会社に定期的に足を運び、社内の雰囲気、従業員数の増減、原材料を搬入したり製品を搬送するトラックの出入り情況、経営者の顔色や言動等、信用情況の変化に常に気を配ることが重要です。
(2)但し、日本のような「支払うのが当たり前」という商習慣は中国には無く、決済条件等を含め力関係が全ての中国のビジネス界において、財務的に全く問題の無い相手先であっても、自主的に債権を回収しようとしなければ、立場的に上の相手先からはなかなか支払ってもらえません。逆に、自社の方が立場的に上であれば、相手先の方から現金を持参して自主的に製品を買いに来てくれます。これは中国に限ったことではなく、手形不渡り時の銀行取引停止処分等、債権回収についての日本の制度・習慣は世界の中でもかなり特殊であり、中国における債権回収も「自己責任」と認識することが重要です。
(3)その他、人治の国と言われる中国での債権管理には、企業トップや経営幹部との人的関係づくりも欠かせません。法律面などからの対策を取ることは当然のこととして、信頼関係の構築は債権管理の大きな一助となり得ます。