お問い合わせ

TEL: 06-6969-8888

FAX: 06-6969-8884

E-mail: info@jc-yoshikawa.jp

営業時間

9:00 ~ 17:30 (平日)

定休日:土日、祝日

(※緊急要件は随時対応致します)

基本戦略とチャイナリスクの体系的整理

 

1)重要性を増すリスクマネジメントの強化

  日本企業の事業展開における中国市場の位置付けが急速に高まる中で、産業界は中国経済の活力を自社の成長戦略に活かす方向に転換しつつある。際、中国も含めた海外での売上高を拡大させていく方針を明確に打ち出す企業が増加傾向にある。

  

  しかし、日本企業の売上高や利益に占める中国の比率が高まることは、同時に中国経済や現地法人の動向が日本企業本社の経営に及ぼす影響度が大きくなることを意味している。かつては「米国がくしゃみをすると日本が風邪をひく」と形容されたが、それが現在では中国になりつつあると指摘する企業もある。こうした観点から、今後の中国ビジネス戦略においてはリスクマネジメントの強化が従来にも増して重要になっている。

  

  当然のことながら日本企業は、海外投資はリスクが伴うものであること、特に中国は、日本と政治体制も異なり、リスクが相対的に高いことは十分に認識した上で進出している。そうした中でも、過去には2003年の新型肺SARS)、2005年の反日デモといった想定外のリスクが発生した。

  とりわけ2010年は、日本企業にとって「チャイナリスク」をあらためて再考する1年となった。春先から沿海部を中心にストライキや賃上げの動きが広がり、夏頃からは省エネ目標達成を目的とした不合理な電力供給制限、秋には尖閣諸島での漁船衝突事件を契機に、通関遅延やレアアース輸出の停止といった問題が相次いで発生した。

  

  しかし、海外における事業展開において、リスクは必然的に伴うものであり、中国だけが突出してリスクが高い国というわけではない。今般のヒアリング調査では「中国ビジネスにリスクがあるのはやむを得ない。いかにその影響を最小化するかがポイントである」といった比較的冷静なコメントが多かった。

  

(2)まずはチャイナリスクの体系的な把握を

  まず重要なことは「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」ということで、チャイナリスクとは何かを体系的に把握することである。中国で第2次対中投資ブームといわれた90年代半ば頃までは情報が不足しており、日本企業の事業運営も手探りのところがあったが、現在ではさまざまなルートで情報入手が可能となっている。リスクに関する情報収集が以前に比較して容易になっていることは、逆にいえば対策が立てやすくなっていることを意味している。従って、中国では然るべきリスク対策を打っていけば、チャンスはリスクを上回るといっても過言ではない。際、ヒアリング先の企業からは「中国リスクは各社均等ではなく、中国を理解していない企業にとってはリスクが高い。他方、中国を熟知している企業にとってリスクは相対的に低く、他社との差別化要素となり得る」との意見もあった。

 

  チャイナリスクを「中国での事業展開において進出企業が直面するリスク」として整理してみると、①カントリーリスク、②オペレーションリスク、③セキュリティリスクの3つに分類することができる。

 

  カントリーリスクとは中国自体の信用度であり、政治的、社会的、経済的要因から生じる変化が自社の事業運営に影響を及ぼすリスクである。すなわち中国の政治・社会的安定が続くのか、経済の持続的成長が可能なのかということである。

 

  オペレーションリスクとは中国での際の事業運営において生じるリスクである。中国進出企業は投資環境、生産、販売、財務・金融・為替、雇用・労働などの面において、さまざまな問題を抱えている。こうした諸問題により思わぬところで事業運営に支障をきたすリスクがある。

 

  これらに加えて留意しなければならないのがセキュリティリスクである。反日デモや不買運動などの対日抗議行動、SARSや鳥インフルエンザなどの新興感染症、あるいは従業員の健康管理などには十分留意する必要がある。なお、チャイナリスクは必ずしもこれらにとどまるものではない。特に突発的なリスクが発生する可能性については十分考慮しておく必要がある。10年9月の尖閣諸島での漁船衝突事件などは、まさにその典型的な事例である。

 

(3)危機発生時の適切な対応とそのレビューが重要

  チャイナリスクの中で、カントリーリスクは企業レベルでは対応が極めて難しいリスクであり、務上、オペレーションリスクとセキュリティリスクを中心に対策を打っていくこととなる。具体的には、企業によって各リスクの影響度が異なるため、まずは、自社にとってのチャイナリスクを整理、重大なリスクとそうでないリスクを区分し、重大なリスクの中でも発生頻度が高く、かつその影響度が大きなリスクから優先的に対処していくことが肝要だ。その上で、それぞれのリスクに対する回避策を策定し、事前準備を進めておくことがポイントである。

 

  他方、すべてのリスクを事前に防止することは不可能なこともあり、危機発生時に適切に対処することが最も重要となってくる。ある企業からは「何かが起こった時、迅速に情報を共有し対応できることがリスクに強い企業の証」との指摘もあった。そのため必要なのは、第1はリスク対策マニュアルの整備である。ただし、際に運用できなければ意味がないので、発生時のシミュレーションも織り交ぜながら、事業継続計画(BCP)の策定にも取り組んでおくことが望ましい。第2は危機発生時に「身体を張れる」リーダーの育成である。ヒアリングした企業からは「リーダーは日頃から1件1件の積み重ねにより、リスク対応力を高め、シミュレーションを行い、センスを磨いておくことが重要」とのアドバイスもあった。また、個々の従業員の対応力強化もカギであり、本部から定期的に訪問したり、専門家を招いたりしながら、現地で研修を行うことも必要であろう。

 

  リスクが顕在化した時には、現地で起こる問題は現地で対応・完結し、必要に応じて本部がサポートすることが基本だが、本社に遅滞なく情報が流れ、迅速に判断できる仕組みを構築しておくことも重要である。その上で、発生した問題に関する情報を本部と現地が一元的に管理、発生要因をレビューしつつ、同じ問題を2度と起こさないよう全社的に対応策を蓄積・共有することもポイントである。ある企業は「失敗は自社の財産であり、同じことを起こさないために、何らかの形で体系化できれば、対外的にはノウハウ、武器になり得る」と強調している。

 

  また、リスクマネジメントは自社だけでは限界もあり、外部の専門家の知見やアドバイスを活用することも必要である。進出企業の中には、「専門のリスクマネジメント会社と契約し、リスクの対処方針を検討」、「現地に弁護士のネットワークを持ち、問題が起きた際には彼らに相談し、意見聴取後に判断」といった対応をとっているところもあった。

 

  他方、留意しなければならないのは、リスクマネジメントが一流でも業績が三流であってはならないことである。リスクマネジメントの強化は大事であるが、リスクを過剰に懸念し過ぎればビジネスチャンスを失うことにもなりかねない。リスクを踏まえつつもチャンスには積極的にチャレンジしていくことが中国ビジネスでは欠かせない。とはいえ、コンプライアンスや社内のルールを遵守することが何よりも重要であることは言うまでもない。