コンプライアンス問題
近年、日本本社では、コンプライアンス(法令遵守)意識の向上が見られる。その背景には、一度失った信用失墜やブランドイメージの毀損の回復が大変困難であることがあげられる。
日本本社は、海外現地法人に対してもコンプライアンスの徹底を求めている。中国においては、法文の解釈や運用について幅があるとはいえ、公正な市場経済のためにコンプライアンス違反を徹底的に処罰する機運は高まりつつある。そのため、日系中国現地法人としては、法令違反とならないように、より保守的に対応しようとしている。しかし、そのような日系中国現地法人の方針に反して、長らく今までの習慣に慣れ親しんだ中国人社員が積極的に売上規模を拡大しようとする際にコンプライアンス違反を本人が知らず知らずのうちに行っており、ある日、法令違反ということで処罰の対象となる場合がある。
コンプライアンス違反によって従業員から処罰者を出した際の影響は中国においても甚大である。場合によっては処罰の対象が管理者に及ぶことも十分考えられる。そのようなことを発生させないように、社員一人ひとりに高い倫理観を持たせることが求められている。
企業のなかには、①セールスハンドブックやマニュアルを作成し、コンプライアンスを重視するという企業の方針を常に伝える、②全従業員に対して書面でコンプライアンスを守ることを誓約させる、その上で、③賞罰委員会を設け、処罰される場合にもフェアな手続きで判断する、という体制整備を図っているところもあった。
頻繁に改正される法令などについては、ジェトロなどが实施するセミナーや専門家に確認するなどして、新しい情報を入手しておくことが必要である。
自社のコンプライアンス対策について、取り組み状況を専門家に説明し、どのような課題があるのか具体的に指摘を受け、対策整備を行うことが望ましい。一定規模以上の企業になると、リーガルコストを負担したうえで、弁護士事務所、公認会計士事務所と契約し対応を相談しているケースもあった。
(1)商業賄賂等
今後、日系企業が中国国内販売に積極的になればなるほど、いわゆる商業賄賂などの問題が発生するリスクが増加することが想定される。
中国においては刑法規定の贈賄(刑法164条規定の会社・企業職員等に対する贈賄罪)だけでなく、不正な競争行為の禁止を目的とする、不正競争防止法上「事業者は、財産またはその他の手段で賄賂行為を行うことにより商品を販売または購入してはならない。帳簿に記帳することなくひそかに相手側単位または個人にリベートを贈ることは、贈賄行為として処分する。相手側単位または個人から、帳簿に記帳することなくひそかにリベートを受け取ることは、収賄行為として処分する」(同法第8条)「犯罪を構成するときには、法に従い刑事責任を追求する。犯罪を構成しないときは、監督検査部門が情状に基づき1万元以上20万元以下の過料を科することができ、違法所得があるときはこれを没収する」(同法第22条)という規定があるため、たとえ受取人が公務員でなくとも処罰される可能性がある。
そのため、現地法人内部では、講習会などを開き、従業員に対して対応方法や事例を情報共有するように周知徹底しておくことが有効である。
(2)機密漏洩
機密情報の漏洩については、企業の命取りになりかねないケースもありえるので、機密情報そのものを厳密に管理することとし、同僚の不正を許さない組織作りを目指すことが必要である。中国においてもインターネットの普及は著しいものがあり、一度インターネットの掲示板等に機密情報が書き込まれると瞬く間に多くの掲示板に転送され、情報をコントロールすることが難しくなる。
日本においては、性善説を前提に「悪いことをしてはいけない」というように規範を組み立てて、対象者にその規範を破らないことを期待する。しかし、中国を含む外国にあっては、そもそも「行われて困ることが起こりようもない環境」を創出することが重要とする企業の声もあった。
具体的には、漏洩リスクがある情報については、そもそも収集せず当該箇所に保管しないようにすることなどを検討するべきとの指摘があった。その点、中国以外にも海外拠点を複数有するグローバル企業は対策を立てることに経験がある。しかし、初めての海外進出が中国であるといった中小企業においては、当該コア技術が模倣されれば経営基盤の存立を脅かしかねないような状況に晒されているにも関わらず、防御対策が遅れていると指摘する専門家もあり、この点については早急に対策をとる必要があると考える。
企業によっては、「複数ある海外現地法人の中で最も情報漏洩に関する危機意識が高い(換言すれば危機に晒されている)のは、中国現地法人である」と指摘する声もあり、中国で培われた機密情報管理の手法は、他の海外現地法人に横展開できるノウハウになるとのコメントもあった。