3.流通チャネルの開拓・確保
企業がターゲットとする市場で目標を達成するためのマーケティング要素であるマーケティング・ミックスの4P〔製品(Product)、価格(Price)、流通チャネル(Place)、プロモーション(Promotion)〕の中で、流通チャネル(物流・商流・情報流)は自社の経営資源のみならず外部資源に頼ることが多い点で、他の要素と大きな違いがある。また、企業が競争優位の状況を構築する上で、製品やサービスを顧実に届ける流通チャネルの構築には多くの時間と費用がかかる。とりわけ中国では、良いモノやサービスがあっても消費者段階までその良さを实感させることができず苦戦している企業が尐なくない。
一方、いち早く強力な流通チャネルが構築できれば大きな資産となるほか、中国での事業展開における大きなアドバンテージを有することにもつながる。今回ヒアリングした企業からも、中国で「勝つ」ための課題として、販売網や物流網といった流通チャネルの拡充を挙げる声が多く聞かれた。流通チャネルの開拓・確保を通じた競争力強化について、日本企業の現状認識、課題、取り組みの具体例を企業のコメントから紹介しつつ、今後のあるべき姿を展望する。
(1)流通チャネルの選択
① B to B(Business to Business、企業間取引)
流通チャネルの選択では、直接販売はきめ細かい販売促進や顧実のニーズを反映した商品開発・サービス提供といった付加価値販売につなげやすいメリットが評価されている。ただし、自社で広くチャネルを構築するとなれば多額のコストと時間を要してしまう。そのため、ミドルエンド商品の販売や内陸部などまで広く地域展開するには代理店チャネルの活用が重要となっている。代理店販売は直接販売と比べて、製品やサービスの生産者の意向を末端まで反映させることが難しいが、これを補うため、製品知識等のトレーニング实施、代理店との専売契約といった代理店の能力やモチベーションを向上させる方策が不可欠だ。
<直接販売の取り組みに関するコメント>
・ 直販体制のメリットは、セールスパーソンに教育し、徹底して高付加価値のものを販売することができること。アフターサービスが利益の高い割合を占めている。代理店販売では製品の売り切りにとどまりがち。
・直接販売が販売ルートの半分以上を占めるのは、商品が富裕層向けで卸売業者にとっては扱いにくいため。
・ハイエンド品については、専門性が要求されるほか、相手に対してソリューションを提供していく側面もあるので、直接販売を行っている。
・代理店を使って拡販してきた部分もあるが、今後は直接取引にも力を入れて独自でチャネルを強化している。
・代理店を使って拡販してきた部分もあるが、今後は直接取引にも力を入れて独自でチャネルを強化している。
<代理店販売の取り組みに関するコメント>
内陸部へのアプローチは、駐在員を派遣することが難しいので代理店の開拓を通じ展開していく。
・販売増加には代理店とその傘下の小売店の協力が不可欠。代理店、小売店をファミリーチャネル化し、現場の販売力を強化する施策を打っていく。
・ミドル・ローエンド品では代理店が重要となる。代理店に対しては年2回代理店会議を開催、製品知識、営業能力の教育や市場カバー率の向上に向けたトレーニングなどを行っている。
② B to C(Business to Consumer、消費者向け取引)
消費者向け販売では、これまでの百貨店や直営店を中心とした販売から、コンビニ、ネット販売、テレビ通販など活用し得る販売形態が多様化している。また、他社の資本や労働力を活用して速いスピードでの事業展開が可能なフランチャイズ方式の導入を将来的な事業計画に描く企業もある。
<直営店展開の具体例>
・販売を拡大するためには、収集した情報やデータを普遍化していくことが必要であり、現地からの商品情報を仕入れるため、直営店を出店した。
<コンビニ、ネット販売、テレビ通販活用の具体例>
・これまで百貨店でのみ扱っていた商品を、06~07年頃からネット販売の淘宝網で取り扱ったところ内販の売上が伸び始めた。高級百貨店で取り扱っているというブランド力が評価され人気が出ている。
・百貨店を中心に販売してきたが、新たな販売チャネルとして、コンビニ、ネット販売、テレビ通販を開拓している。テレビ通販は宠伝にもなり、売れ行きも好調である。
<フランチャイズ方式に対する考え方>
・直営店の出店形態はいくつかのパターンを検証中。複数のパターンの経験が、フランチャイズ展開する際のフランチャイジーへのコンサルティングに生きてくる。
・ 直営店で拡販するには資金回収の問題もあり、将来的にはフランチャイズ展開を計画。
(2)地域展開・店舗展開
広い中国全土を全てカバーすることは難しい。重点地域を設定しサービスの品質を落とさずに、展開地域を拡大することが課題となっている。また、消費財では、上海は競合が多く価格競争が厳しいながらも、ショーウィンドウ的な効果もあり、事業展開上外せない都市との指摘もある。
<展開エリアの集中に対する考え方>
・中国全土をカバーするのは難しいので、重点地域を選定して、モノ・情報・カネを集中していく。
・販売地域拡大を急ぐのではなく、進出地域でシェアを獲得してからマーケットを次第に拡大させていく。
・ 地域に密着し、地元に合う製品・サービスを提供し、その市場にあったビジネスを構築していく方針。ビジネスモデルを確立してから他地域への拡大を考える。
<チャネル拡大とサービス品質の維持>
・無理に店舗を拡大して品質を落とすつもりはない。
・現在は直営店が多い。フランチャイズは増やすがサービスが低下しないように急激には増やさない。教育訓練しつつ長期的にはブランド力を確立していく方針のため、拡大を急がない。
<店舗展開:百貨店使い分けの具体例>
外資系、地場系問わず百貨店に出店しているが、百貨店の特徴によって店舗戦略を区分けしている。オンリーワンを目指す百貨店では値下げしないが、若干大衆的な百貨店内の店舗では値下げもよく行っている。展開する商品もプレミア感を重視する百貨店には先進的なデザインを出し、それ以外ではアウトレット的な位置付けで商品を出している。
(3)物流インフラ
物流インフラは、ネット販売では中国国内では届かないところの方が尐ないくらいに発展し、コールドチェーンも一部の都市内ではコンビニ業が成り立つほど整備されつつある。しかし、都市を跨ぐチルド輸送などは日本と比べると相当脆弱な面もある。
<物流インフラの見方>
・ネット販売には物流面の懸念もあるが、中国国内どこでも運ぶサービスが存在している。想像以上に物流インフラは整備されつつある。
・90年代から中央政府からの出店要請があったが、当時は物流インフラが整っておらず展開できなかった。現在は、整備されてきている。
・都市間物流、チルド輸送・大型商品などの特殊輸送の物流インフラは日本と比べて弱い。
・内陸地域にも販路を拡大したかったが、内陸はコールドチェーンの面でのネックがあり難しいと判断した。
(4)販売、物流以外の生産者・消費者間ネットワーク
競争が熾烈な中国市場で打ち勝つためには、製品の機能のみならず、配達やアフターサービスといった付随機能にまで差別化のポイントが広がっている。そのための基盤づくりとして、アフターサービス網などの整備も課題となる。
<アフターサービス網整備の考え方>
・各地にサービス事務所を設け、販売後のメンテナンス需要等に対応している。ブランド信用力を失わないためにも保証体制は充实させている。
・中国市場で勝つための基盤づくりを図るべく、販売体制面では内陸部を含め、需要が見込まれる地域に拠点を設置するともに、テクニカルサポート体制も充实させていく。
・日本からの輸入はアフターサービス面で遅れが生じる。中国系の地場メーカーは、販売した商品が故障するとすぐに担当者が代替品とともに赴く。当社が扱うのは日本からの輸入品のため、パーツがなかったりして修理にも時間がかかるしフォローアップも遅くなってしまう。
<調達ネットワークの重要性>
・進出当初は知名度がなく調達も難航した。最初は日本の商品を多く展開したが、日本の商品に対する信頼は高かったものの売れなかった。現地調達に切り替えてからは業況も好調になり評価されるようになった。
中国市場参入のため合弁工場をつくったものの、消費者までモノが流れずに失敗した経験を持つメーカーがある。その後、この企業は、中国で商品を売っていくには流通を押さえる必要があるとの認識から通販事業で中国市場に参入した。その後、同社は、その流通ネットワークを活かして、自社ブランドの製品を中国市場に投入していく方針だ。このように、流通チャネルの構築には、多くの時間とコストが掛かるのが实情だ。
製品や目的に応じて、各社が流通チャネルに求める役割は異なる。流通チャネルと通じた競争力強化においては、ターゲット市場の状況や自社の経営資源を正確に把握した上で、チャネルに期待する機能を最も効果的に实現できるのは何かという視点で、整備を図っていく必要があろう。