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2.市場に適合した製品の研究開発

 

(1)加速する日本企業の中国における研究開発の動き

 急速に拡大する中国市場の開拓を進める日本企業にとって、売り上げの拡大を図るべく、市場のニーズに適合した製品・サービスを展開していくことが一層重要となっている。

従来多くの日本企業は、研究・開発拠点を日本に設置しハイエンドな製品の研究・開発を進め、日本で販売展開している製品と同様の製品、または若干の仕様を変更した製品を中国において販売してきた。

 

 一方、中国では、地域によっても所得水準・消費レベルが大きく異なるほか、世代・地域によっても消費嗜好・習慣が大きく異なるのが特徴である。加えて、08年に発生した米国発の金融危機以降、中国の経済発展の中心がこれまでの沿海部から内陸部にも拡大したこともあり、これまで市場拡大のけん引役であった高所得者層のみならず、中低所得者層などのいわゆる「ボリュームゾーン」が市場拡大の「」を担うようになった。しかし、高所得者層と比較すると当該層の購買力は依然低く、消費嗜好・習慣も異なる。このため、高所得者層以外の消費者層も対象範囲に含めた形での販売強化を図っていくためには、現地消費者・ユーザーの意向を踏まえた製品を開発し、それを即座に展開していく必要が生じている。

 

(2)課題となる日中研究開発拠点間の「棲み分け」

 このように、日本企業においても中国における研究開発により積極的に取り組む企業が増えている。その一方で、グローバルに展開する製品の研究開発を行ってきた日本の研究開発拠点との「棲み分け」をどのように構築していくかも1つの課題となる。その際の考え方としては、①日本では中核的な技術を開発し、それをベースに中国においてデザイン・仕様などを調整し、品揃えやバリエーションを増やしていく手法、②中国で販売される製品はあくまでも中国で最初の段階から研究開発を行っていく手法、③製品カテゴリー別に、ハイエンド商品は日本で、販売ボリュームが急拡大しているミドル・ローエンド商品は、現地開発していくなどの手法が考えられる。その他、中国における研究開発拠点を活用して、将来的には当該製品を他の新興国市場、さらには先進国市場にも展開する「リバースイノベーション」戦略を検討する企業も出始めている。

  

 他方、技術開発分野における日本企業の強みや優位性をしっかりと認識をした上で、中国での研究開発に当たるべきとの指摘もある。ある企業は「技術にはハードとソフトがあるが、日本企業が強みとするのはいわゆる職人業などのソフトの部分。そうした技術は模倣しづらく競争力もある。熟練職人の技術・ノウハウなどまねができないソフトの部分は強みを発揮できる」と指摘する。また、日本の技術力の源泉は「すりあわせ型」であるとの指摘もある。これまで日本企業は、顧実のニーズを深く把握することで、それに合致した形の製品を開発してきた。中国が海外での市場開拓における最大のターゲットとなる中、こうした日本企業の強みを生かし、中国市場のニーズをいかに「奥深く」掴み、それに適合した製品を開発していけるか、中国側顧実との「距離感」も今後の研究開発の成否を握るカギとなりそうだ。

 

 さらに、中国特有の課題でもある知的財産権問題への対応だが、中国での販売を拡大していくためには、自社の技術・ノウハウをどこまで開示するのか、換言すればどこまでをブラックボックス化して展開するのかを常に検討し、状況に応じ開示・非開示部分を柔軟に調整するなどの対応も必要となろう。中国政府は、自国市場での販路拡大のチャンスを外国企業に提供する代わりに、より先進的な技術の開示を企業に求める姿勢を強めつつある。こうした政府の姿勢、さらには第12次5ヵ年規画でも謳われている戦略的新興産業への積極対応なども図っていく必要があろう。その他、政府との関係で注視していくべき観点としては、技術標準への対応がある。中国市場の規模が拡大する中、今後中国の標準を世界標準とする動きが活発化することも考えられるからだ。

 

(3)重要となる人材育成への対応

 中国での研究開発拠点を機能させるためには、当然のことながら、中国人の消費習慣・嗜好を理解する中国人技術者の採用・育成・活用が欠かせない。研究開発コストの面からも、中国において中国人技術者を活用して研究開発を行うことが競争力向上の一つの手段という見方もある。人材育成に向けては、中国人技術者を日本に派遣して研修を行うプログラムを設ける企業もあるほか、中小企業の中には、中国の技術系の人材を本社採用し、将来の中国展開に備える企業もある。

技術力を競争力の源泉として成長を遂げてきた日本企業にとって、中国市場、さらには中国企業の台頭は、今後の日本企業の研究開発にも大きな影響を与えつつある。各社においては、展開する各製品分野の中国における市場状況、今後の見通しなどを分析・研究した上で、今後の中国での研究開発拠点の設置、現地に投入する製品開発も含め、自社として最適と思われる今後の研究開発体制のあり方を検討していく必要があろう。