競争力強化に向けた課題・問題点
1.基本戦略と第12次五ヵ年規画の研究・分析
2010年における中国のGDP総額が日本を抜いて世界第2位となる中、日本企業の中国における事業展開も、従来の「輸出拠点」としての展開から、「中国国内販売」としての展開へと急速に移行しつつある。日本の尐子高齢化の進行を背景とした人口減尐により、日本市場での売上拡大に向けた難度が高まる中、成長を続ける中国での売上拡大に一層注力する必要性は高まっている。
一方、中国における売上拡大に向けた環境は年々厳しさを増している。WTO加盟後の市場開放を通じて、中国国内での内外資入り乱れての競争が激しさを増していることが背景として挙げられる。
成長」という「チャンス」はあるものの、多くのライバル企業がしのぎを削る中国市場において収益を増大させ、自社の業容拡大につなげていくには、中国における自社の競争力を維持・拡大していくという視点が重要となってくる。
市場経済が進展したとはいえ、中国は共産党を唯一の指導政党とする中央集権体制であり、展開するビジネス分野によっては、共産党・政府の方針・考え方が色濃く反映されるケースが尐なくない。こうした点を踏まえると、中国でのビジネス展開にあたっては、中央政府、地方政府の経済政策・方針を踏まえたビジネス展開も重要となってくる。
中国における経済政策・方針の根本となるのが、5年に1度発表される5ヵ年規画である。5ヵ年規画は中国政府が定める向こう5年間の中国の国家建設における基本計画であり、第1次5ヵ年計画は1953年から開始された。第11期全国人民代表大会(全人代)第4回会議では、11~15年まで適用される、第12次5ヵ年規画(12・5規画)が発表された。向こう5年間の中国ビジネス展開に向けては、12・5規画全体の方向性に加え、特に自社に関連する産業・分野の記述を詳細に研究・分析した上で中国ビジネスに臨む必要があろう。
5ヵ年規画において注目すべき点として、中国政府は達成すべき具体的な数値目標を示している点が挙げられる。目標は、大きく拘束性目標(为として法律による管理の強化や財政の配分等により必ず達成する目標)と所期性目標(为として市場メカニズムにより達成される目標)に大別されるが、特に拘束性目標については、時の政権にとって、達成が義務付けられる側面がある(目標の詳細については、第2章Ⅱの「第12次5ヵ年規画の概要」を参照)。12・5規画においては、環境・省エネに関する以下の目標指標が新たに追加された。
・一次エネルギーに占める非化石エネルギーの消費比率を8.3%から11.4%に引き上げ。
・アンモニア窒素およびNOx(窒素酸化物)の排出量を10%削減。
こうした目標指標達成に向けて、中国政府は今後より強力な政策措置を打ち出していくものとみられ、政策措置に資するようなビジネス展開を図ることも1つの方向性といえる。
他方、規画本文をみても、様々な政策が列挙されているだけで、列挙された政策の具体的な内容について詳細が記載されていない場合も尐なくないが、それぞれの産業・分野でも、別途12・5規画を基本とした産業別・分野別の5ヵ年規画が発表される。各産業・分野に特化した中国政府による政策の方向性をウォッチしていくためには、これら規画の詳細についての分析も必要となろう。さらに地方政府においても、中央政府の5ヵ年規画をブレイクダウンしつつ、各地方の現状などを加味した形での12・5規画を制定していく見通しであり、これらについても注視していく必要があろう。
加えて、こうした計画を先取りし、中央政府・地方政府等に対し、規画で示した目標達成に資するような新たなビジネスモデルを提案し、競争環境の厳しい中国において、政府のお墨付きを得たうえで比較優位を得るという戦略も重要といえる。
さらに、分野によっては、20年までを見通した中長期計画が立案されている分野もある。もちろん中国経済の成長・変化が速いこともあり、長期の目標・見通しが途中で変更される可能性もあるが、中国において中長期的に持続可能なビジネス展開を模索するためには、将来を見据えたビジネス展開を図っていく必要もある。
最後に、政策を理解する上では、中央・地方政府等が発表する公式文書の研究に加え、政策当局者・あるいは政策提言を行っている研究者等と日頃から情報交換し、政策発表の背景・意味等について、競合相手よりも先行して理解するよう努める必要もある。それと同時に、政策当局者・研究者等にも自社の中国におけるビジネス展開の方向性について情報提供し、先方との間で相互に情報交換できる関係を構築することで、ビジネスチャンス拡大に結び付けていくという視点が今後ますます重要となってこよう。