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5.コスト競争力の強化

  (1)コスト競争力強化の必要性

  中国において生産コスト上昇に向けた対応を図りつつ、激化する中国市場での競争に打ち勝つためには、各企業のコスト競争力の一層の強化が必要となっている。特に2010年には、人件費の急速な上昇に加え、日系企業でも労働争議問題が多発するなど、「低廉で良質な労働力が豊富に確保できる」という中国の優位性は低下しつつある。

  

  その一方で、旺盛な内需を狙い中国市場への外資系企業の参入が相次いでいるが、中国地場企業の台頭も目覚しく、中国での内販をめぐる競争は一層激化している。また、これまで享受していた所得税の「二免三減」政策といった外資優遇策が次第に撤廃されるなかで、今後外資系企業は地場企業と対等な立場で競争していくことになる。こうした中で、製品の品質は高いものの、「高コスト体質」と言われる日系企業にとって、コスト競争力への対応の強化は喫緊の課題ともいえる。

 

(2)対策

  

  コスト競争力の強化に向けては、以下の対策が有効と考えられる。

   ①生産・販売能力の強化

  生産・販売が拡大すれば、量産・量販効果が生まれ、製品1単位あたりのコストを大きく引き下げることができ、生産コスト増大によるマイナスの影響の軽減につながる。ヒアリングの結果でも、「中長期計画を立てる上で生産能力の拡大は不可欠」、「中国市場の拡大にあわせて生産能力を拡充する」といった声が目立った。平均10%以上の経済成長を続ける中国市場において、成長率以上の生産・販売の拡大を目指していくことは、中国ビジネスにおける競争力の維持・強化のためにも必要な対策である。

  

  ②現地調達率の引き上げ

  今般のヒアリング調査では、「コスト競争力強化のため現地調達を進めている」との声が多く聞かれた。「コア技術は日本に留めておくが、円高などの為替リスクへの対策からも対日輸入から現地調達への切り替えを検討している」といったところもなくなかった。

 

  一方、「日本企業が求める水準に達していない」、「当方の図面・仕様通りにできていないものがある」、「欠陥品が多く、サンプル通りのものが納品されない」といった問題点も指摘され、現地調達品が要求される技術・品質水準をクリアするまでにはまだ一定の隔たりがあることも事である。こうした問題に対応するべく、技術面の問題に関しては「技術指導も含め対応していく」という声もあるなど、現地サプライヤーの育成に力を入れる企業もある。「部材調達の面では、需要の急増に供給が追いつかず、競合相手同士の部品の『奪い合い』となるケースもある。加えて、中国の部品メーカーはドライな体質のため、態度が急に変わる」などと、中国市場の旺盛な内需によりサプライヤーの「売り手市場」となっている状況も発生しており、安定的な部品調達のためには地場企業との良好な関係構築なども必要だと言える。

 

  他方、自動車業界を中心に現地調達比率を高めるべく、完成品メーカー・大手部品メーカーなどから中小の部品メーカーに対する中国進出圧力も高まっており、中小企業の中国進出の動きも加速しつつある。

 

  また、際の調達においては、「2社から調達することで価格競争させる」といった方法や、逆に1社から集中的に調達することで単価引き下げを行うといった工夫も重要と言える。

  

  ③自動化・省力化

  人件費の上昇は今後の中国での生産においては避けては通れない課題であり、全体のコスト上昇圧力においても最大の懸念要因となっている。2011年から始まる「第12次5カ年規画」においても「経済成長と同じペースで国民所得を増加させる」と、所得引き上げに向けた具体的な目標が掲げられている。また、15年には労働人口が減局面に入ると推計されており、今後人手不足の問題は一層深刻化していくだろう。

  

  こうした中、人件費の過度な増大や人手不足への対応を図るため、生産段階における自動化・省力化を進めることを検討する日系企業が増えている。企業の中には「労務費が倍増したら、人員数を半分にするというくらいの発想で対応。つまり自動化・省力化を進める」、「特に今年度から製造工程をより一層機械化し、生産性の向上に取り組んでいる」といった意見があった。またその方法については「工場全体の自動化(ファクトリーオートメーション)を進める」や、「全体的に自動化するには費用がかかり生産の応用性も低下するため、マンマシーン(機械と人で相互に補い合う)という考えで取り組む」といった声もあった。

自動化・省力化は6070年代以降日本が本格的に取り組んできたテーマでもあり、こうした動きが今後中国においても加速していくとみられる。

  

  ④内陸部へのシフト

  大手企業を中心に内陸部への展開を検討する企業が増えている。理由としては、第1に沿海部での規制強化や人件費の高騰など事業環境が悪化する中で低廉で、比較的豊富な労働力を有する内陸部への生産拠点の移転が進んでいること、第2に市場規模が拡大する中で、内販向け生産における内陸部の重要性が高まっていること、第3に所得水準の上昇に伴い外資系企業が対象となり得る内陸部の有望市場も増えており、沿海部と比べて競合企業がない内陸部の市場を狙って参入する企業が増えている、という点が挙げられる。

  

  一方で、際に既存の生産拠点を内陸部に移転した事例は依然ない。「物流費などを含めるとコストが高くなってしまう」、「部材調達コストや物流コストを考えると、採算が合わない」など物流コスト、調達コストの面で課題が大きいほか、生産の絶対量がない中小企業や初期投資のかかる設備製造業としては、業績が黒字化するまでに時間がかかるという問題もある。また、「内陸で生産しても賃金コストの差は月500600 元程度の差しかない。沿岸部までの輸送費を勘案するとそれほどコストメリットがない」など、安価な人件費だけを目的に進出するメリットはないとの意見もあった。

 

  それでも全般的に内陸部へ対する注目度は高く、将来的には内陸部へ進出するとの方針が大手企業を中心に多かった。企業の中長期戦略を考える上で内陸部への進出は重要な戦略となりつつある。

  

  ⑤間接費の共有・集約による間接コストの削減

  企業の生産コストのうち、生産に直結しない間接費(総務、管理、情報収集など)に関しては、できるだけ共有・集約させることで経費削減・コスト競争力の強化につなげることが可能である。例えば大手企業の場合は、「これまでは事業部制の下、各事業部がバラバラに中国に進出していたが、管理部門を共有することによって間接部門の経費を削減することを考えている」といった方策が検討されている。他方、中小企業においては、「異業種連合」という形で、間接費の企業間での共有化を図っているところもある。

 

  上記の対策のほか、日系企業によく言われる「高コスト体質」から脱却し、生産性を向上させるために、①人材や経営の現地化を進める、②日系企業同士の取引に依存するのではなく地場企業との取引を積極的に拡大していく、③生産・管理の効率性を高めるなどの経営面の抜本的な見直しも検討していく必要があるだろう。