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4.きめ細かなマーケティング

  中国は国土面積が日本の約25倍、人口は10倍以上という大国であり、地域ごとに経済格差が大きく、消費水準や嗜好も異なる。また、所得や世代によっても消費観念や嗜好が異なるため、市場開拓においては、こうした市場特性の違いに配慮したきめ細かなマーケティングの施策が必要となる。以下、中国でのマーケティングを考える上で必要となる要素について、それぞれの特徴を分析する。

(1)セグメンテーション(市場細分化)

広大で多様性に富む中国市場に、効果的・効率的にアプローチするためには、市場を細分化し、自社の企業体力や製品特性に応じて対象とする顧実層(セグメント)を見極める必要がある。

      ① 地域性

  中国市場を日本のような単一市場として捉えようとすると、正しい認識は得られない。中国ビジネスの「勝ち組」と呼ばれる企業は、31の省・直轄市・自治区をそれぞれ国のごとく捉えて、地域ごとのマーケティング戦略を立て、それに基づき商品展開を行っている。

食品など消費財については、嗜好性も考慮する必要がある。上海と比べて、その周辺都市や内陸部の消費者は、食に対する考え方が保守的と認識する食品関係者は多い。上海では人気のある商品でも「その地域の消費者が買いたいと思わなければ市場開拓は難しい」とみており、都市によって販売する商品を大幅に変えている企業もある。また、近年、購買力が急速に高まっている内陸市場の開拓も検討していく必要もあるだろう。「出稼ぎ労働者が多い広東省で知名度を挙げておくことが、内陸部への展開に有利」という見方など、市場開拓においては多種多様な捉え方が存在する。様々なファクターを踏まえつつ、地域特性に合致した布石を打っていくことが求められる。 

 

 ②価格帯

  日本企業の中国市場開拓は、高付加価値製品を富裕層に売り込むことが各社の基本戦略であったが、中国の購買力の上昇に伴い、ボリュームゾーンにいかに踏み込むかが新たな課題と認識されてきた。食品関係では、「進出時は当時の所得水準からすると高い価格設定だったものの、近年の所得上昇で自然とボリュームゾーンを狙うこととなった」とする企業もあるものの、多くの企業にとっては、ボリュームゾーン向けの商品を新たに投入するため、得意としてきた高付加価値製品とは異なる生産や販売を模索する必要が出てきた。

ボリュームゾーンへのアクセスにあたっては、これまでは先進国向けに開発した製品をベースに中国向けに機能を削る「ダウングレード戦略」が中心であった。今後は、最初から中国のボリュームゾーン向け製品を開発し、中国の経済成長に伴い付加価値を高めていく「アップグレード戦略」を通じ大幅なコストダウンを目指す企業も現れている。

 

  ③年齢層

  中国においては、世代間の消費性向・嗜好も大きく異なる。日本では団塊の世代が長年、消費者全体の消費行動をリードしてきたが、中国の50代以上の世代は、消費に対しネガティブな意識を持っているのが現状である。消費の体を担うのは、3040代であり、なかでも、高所得者層はマンション、車、高級ブランドなど「モノ」への消費意欲が高い。

一方、「80後」と呼ばれる1980年代以降に生まれた層は、改革開放政策以降の市場経済体制の下、一人っ子として時代的に恵まれた環境で育ったため、消費スタイルも洗練され、新しい流行にも敏感だ。デザインや機能において先進的なものを求め、デジタル製品やファッションの消費をリードしている。

ターゲットとするセグメントへの基本的アプローチとしては、市場全体から最も平均的な顧実層を選んでターゲットとする「非差別化マーケティング」、複数のセグメントごとに異なる製品やサービスを用意する「差別化マーケティング」、特定の顧実層に特化して経営資源を集中投入する「集中化マーケティング」の3つがあるが、国土面積が広く多様性に富む中国では、非差別化マーケティングが適した市場はほとんどないといえるだろう。投入できる経営資源が多ければ、差別化マーケティングが理想であるが、多くの企業にとっては集中化マーケティングをとるのが現的である。

 

(2)製品戦略

  企業がターゲットとする市場で目標を達成するためのマーケティング要素であるマーケティング・ミックスの4P〔製品(Product)、価格(Price)、流通チャネル(Place)、プロモーション(Promotion)〕戦略のうち、製品戦略は、それが明確になってはじめて、他の4Pの要素である価格戦略、流通チャネル戦略、顧実へのプロモーション戦略が決まる。また、マーケティングにおける「製品」は、製品そのものだけでなく、ブランドやデザイン、包装、品質、配送、アフターサービスなども含めた広い概念である。

 

  市場が成熟した日本と比べると、中国市場ではまだ投入されていない商品やサービスが数多く存在する。そのため、中国においてはマーケティング戦略より商品戦略を展開すべきという見方もあるが、際に、中国ビジネスの第一線にいる人の多くは、「中国に入り込んだモノづくりやマーケティングをやっていかないと、市場開拓が成功しない」と感じている。内需を狙うため、中国に研究開発拠点を設け、商品開発を現地化する動きが加速しているが(第3章Ⅰ-2「市場に適合した製品の研究開発」参照)、依然として、「他の国で売れる良いものは中国でも売れるはず」という考え方が社内で支配的なため、中国市場向け商品企画に対する理解が得られず苦しんでいる中国事業担当者もいるのが現状だ。

  

  競争が熾烈な中国市場では、製品の機能のみならず、デザイン、ブランドといった製品の形態や、アフターサービスといった付随機能にまで、差別化のポイントが広がってきている。高品質、高性能な製品を得意としてきた日本企業にとって、価格で勝負することは難しく、それを補うため、顧実に対する付加価値の説明、提案、ブランド力の向上が重要性を増している。

  

(3)価格戦略

  日用品の購入において、中国の消費者は価格に極めて敏感だ。「モノさえ良ければ売れる」という時代ではなくなっている。価格は中国で消費者に選ばれるための大きな要素であり、安くモノをつくるのが「得意」ではない日本企業にとっては大きく立ちはだかる課題である。

  

  他方、メラミン問題のあった中国では、「安心・安全」の日本製粉ミルクの売れ行きが好調なように、商品の良さが消費者に理解されている場合、カスタマー・バリュー(顧実が適正だと認める価格)は高くなり、価格が購入に際しての大きな阻害要因とならないケースもある。つまり、「価格が高い」といわれる日本製品にとって、価格以上の価値を明確に提示することが重要ともいえる。富裕層が「高価な買い物ができる成功者としての自分」というものに価値を見出し、むしろより高額な耐久財やサービスを買い求める傾向があることも、日本の製品・サービスにとってはチャンスであるともいえる。

 

  中国における価格戦略で注意すべき点は、市場占有力の高い製品を有する企業などとの価格競争だ。価格設定をコスト以下にして、一気に市場シェアを獲得するペネトレーション・プライシング(市場浸透価格政策)を行い、競合他社を市場から排除した後に、価格を吊り上げる「戦法」である。こうした「戦法」に対応していくためには、中国の事情を把握した企業などとのアライアンスを通じ、アライアンス相手の強みを自らの強みにして生かしていく戦術を研究することも一つの方法となろう。

 

(4)プロモーション戦略

  製品やサービスの価値あるいは特徴を顧実に伝えていくプロモーション戦略も、中国でのマーケティングを行う上で、重要な要素となる。その具体的な手法として、広告、販売促進、人的販売、パブリシティ、口コミなどが挙げられる。

効果的なプロモーション手段は、消費者が製品の存在を知り(Attention)、興味をもち(Interest)、欲しいと思うようになり(Desire)、動機を求め(Motive)、最終的に購買行動に至る(Action)という購買決定プロセス(マーケティング用語のAIDMAモデル)において、どの段階に顧実が該当するかによって異なってくる。製品ライフサイクルの導入期や、コモディティではない特徴ある価値を提供するには、顧実に直接対応し、製品の使用方法や優位性などを双方向でコミュニケーションできる「対面販売」が有効だ。 ショールーム設置はそうした観点での1つの有効な取り組みだ。

 

  食品の販売では、試食や試飲の機会をつくり、商品の良さを理解してもらわないと消費につなげることは難しい。食品の輸出に取り組む企業の話では、「際の作り手が一緒に営業に回ると、相手の感触が全然違う」という。

 

  また、中国の業界のキーパーソンから評価されていることを、広告やパブリシティ、口コミで顧実に伝える方法もある。食品であれば有名シェフ、機械であれば大学や研究機関の第一人者に商品のよさを認めてもらい、広告塔となってもらう取り組みをしているところもある。また、インターネット上で影響力の大きいブロガーに商品やサービスを体験してもらい、ブログで話題としてもらうことで、商品やサービスに対する関心を広げていく手法もある。

 

  メディアを使った広告は、広告費が日本並みに高い割に、媒体やチャネル数が多く、「ベトナムやインドネシアと比べて、効果が限定的」という声もある。プロモーション戦略の観点からも、ターゲットとする地域、所得層、年齢層の見極めが重要だ。

 

  広大で多様性に富むという特徴に加え、中国市場においては変化のスピードが速いことも一つの特徴だ。政策の影響などにより、需要が予想外に増減するなど、予測が難しい市場でもある。中国で伸びるのはどの地域・分野の市場か、半歩先を見通すことができる体制をつくり、方向性をつかんでいくことも肝要だ。また、中国の顧実は、「意思決定が速いが、寝返るのも速い」といった見方もある。勝ち組でも常に挑戦者でなければならないし、挑戦者は勝ち組以上に挑戦していかねばならない市場ともいえる。変化を続けるマーケティング環境を正確に把握・分析し、自社にとっての市場機会と脅威を見出し、それを更なるマーケティング戦略の立案と行に生かしていくことが求められている。