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中国経済の中長期展望

  

  2010年における中国のGDP(国内総生産)成長率は、輸出の大幅な回復等により、10.3%と2ケタ成長を達成した。GDP397,983億元となり、日本を抜いて世界第2位の経済大国へ躍進した。11年も10年並かそれ以上の成長を予測する見方が大勢であるが、5年先あるいは10年先を見据えた場合、どのように推移することが展望されるのか、また、中長期的視点で中国経済を見る上での注目点は何なのかをまとめてみた。

  

1.2020年に向け経済成長率は徐々に低下

 中国は第12次5カ年規画(201115年)期におけるGDP成長率の目標を年平均7%と設定しているが、際はこの目標を上回る成長が続く可能性が高い(第11次5ヵ年規画期の目標は年平均7.5%であったが、績は11.2%であった)。2016年以降は予測ということではなく、あくまでイメージであるが、中国の成長率は過去のような右肩上がりはあり得ず、徐々に低下していくことが予想される。中国は2003年から2007年まで、5年連続で10%を超える2ケタ成長を達成したが、このような高成長は今後ほぼ不可能だろうというのが、多くの中国の政策担当者や有識者の見方である。

  

2.環境・エネルギー問題や子高齢化が制約要因に

  中国の成長率が低下していく要因としては、大きく3点が挙げられる。

   第1は、中国の経済規模が既に日本を上回るくらい大きくなったことである。例えば2000年代前半の頃の経済規模であれば、前年比で10%以上伸ばしていくことはできた。しかし、現在では日本と肩を並べるぐらいの経済規模になっており、成長率計算上の分母が大きくなっているので、10%以上の伸びを維持していくことは難しくなりつつある。

  

  第2は、環境・エネルギーの問題が深刻なことである。これまで中国の経済成長は、環境・エネルギー問題を犠牲にした成長といえる。つまり、エネルギーを大量に消費し、環境を破壊しながら成長してきたわけであるが、今後についてはエネルギーを大量に消費するような形の成長は望めない。また、環境問題が深刻化する中で、今後は環境保護にも相当力を入れていかないと社会問題に発展しかねない。

  

 中国は93年から石油の純輸入国に転じ、09年は石油の輸入依存度が5割を超えた。今後経済規模が拡大していけば、当然必要なエネルギー量も増加していくことになるが、石油の純輸入国でもある中で、必要なエネルギーを確保するには、世界からの調達を大幅に拡大しなければとても間に合わない。このため、中国は近年、オーストラリアやアフリカなどで資源の権益確保に動いているわけであるが、それでも十分な調達は難しい。このため、中国が経済を持続的に発展させていくためには、省エネおよび新エネルギーへの転換、特に再生可能エネルギー(風力など)への転換を進めていかざるを得ない。

  

  第3は、労働人口(1564歳)が2015年頃から減に転じていくことである。これは一人っ子政策の弊害であるが、労働人口が減に転じ、労働力の投入が減ってくれば、経済成長にとってはマイナスになってくる。全体の人口は2030年代の半ばぐらいまで増え続け、現在の約13億人から15億人余りに増加した後で、そこをピークに全体の人口も減に転じていくことが見込まれているが、それに先立って2015年ぐらいから労働人口が減に転じていくことが予測されている。

  

3.経済成長のカギは個人消費、第3次産業、内陸部開発

  

 以上のように、さまざまな制約要因はあるものの、今後はいくつかのファクターが中国経済の新たなけん引役となり、経済成長を下支えしていくことも期待される。

  

 第1は、個人消費である。09年の中国のGDPの支出別内訳をみると、消費が48.0%、

投資が47.7%、純輸出が4.4%となっている。ただし、消費には政府消費も含まれており、個人消費は35.1%に過ぎない。先進国における個人消費の割合が6~7割であることを考慮すれば、経済成長に対する個人消費の寄与度は相対的には小さく、これまで中国の経済成長のけん引役は投資と輸出であったといえる。

  

 他方、近年は経済成長の中で、個人所得も急速に高まっている。政府も消費・投資・輸出のバランスのとれた経済成長に向けた内需拡大を要目標と位置づけ、国民の消費力を強化する方針も示している。第12次5ヵ年規画では、「国民生活の全面的な改善」を要目標の1つとして定め、経済成長と同じペースで国民所得を増加させることや、法定最低賃金を年平均13%増加させることなどが謳われている。

 

 消費拡大を推進する上で不可欠となるのが格差是正である。そのためには、中低所得者の所得増加や社会保障制度の整備が必要であり、そういう意味で、消費拡大は経済政策の問題だけでなく、収入の再配分にも関わる問題となっている。中国がこうした問題を克服し、消費が経済のけん引役になっていくかが注目される。

 

 また、中国のGDPの産業別内訳をみると、第1次産業が10.3%、第2次産業が46.3%、第3次産業が43.4%となっており、第2次産業、特に製造業が経済成長のけん引役となっている。ただし、先進国ではGDPに占める第3次産業の割合が6~7割であることを勘案すると、中国では第3次産業、とりわけサービス産業の発展が相対的には遅れている。

 

 实際、第11次5ヵ年規画(200610年)で掲げた数値目標のうち、GDPに占めるサービス産業比率、全就業人口に占めるサービス産業の比率は未達となった。このため、中国政府は今後、サービス産業の育成に重点的に取り組む方針を示しており、第12次5ヵ年規画ではGDPに占めるサービス業の比率を4ポイント引き上げることなどを目標としている。中国政府の支援も受けて、サービス産業が経済成長の新たな担い手となることが期待されている。

 

 サービス産業以外にも、政府は製造業の高度化に加えて、戦略的新興産業(①省エネ・環境、②次世代情報技術、③バイオ、④ハイエンド設備製造、⑤新エネルギー、⑥新素材、⑦新エネルギー自動車の7業種)を今後の中国経済を支える産業として重点的に育成・発展させていく方針を打ち出しており、戦略的新興産業7業種のGDPに占める割合を、現在の約5%から2015年までに8%、2020年までに15%にまで引き上げることを目標として掲げている。 今後はこうした新しい産業の発展が、中国経済の成長をけん引役していく可能性も高い。

 

 さらに、国内でのインフラ投資に関しても、中国政府は地域間格差の是正のため、2000年に西部大開発を始動、過去10年(200009年)に2兆2,000億元を投じ、120のプロジェクトを施してきた。中国共産党は10年5月、胡錦濤・国家席の宰で政治局会議を開催。西部大開発をさらに10年間延長し、資金を一層投じて支援策を拡充する方針を決定しており、特に数民族地区などの発展を加速し、社会の安定を目指す意向を示している。

 

 国家発展改革委員会は10年7月、同年の西部大開発について、23の新規重点投資プロジェクトを発表。従来のインフラ建設に加え、風力発電、太陽光発電といった新エネルギー分野を初めて盛り込んだ。総投資額は6,822億元と、200009年の10年間に投じた総投資額の約3分の1に達した。

 

  中国の有識者の中には、中国経済のピークは20122013年頃で、現在9~10%といわれる中国の潜在成長率は今後徐々に低下していくと見る向きが多い。ただし、個人消費やサービス産業、内陸部の開発投資が新たな経済成長の牽引役となることで、恐らく2020年の時点でも7~8%程度の成長率は維持するものとみられる。仮に、このレベルの経済成長率で推移すると、10年後には中国の経済規模は現在の2倍以上となる見込みである。

 

4.今後の注目点は新政権の政策運営、5ヵ年規画等

 

 中長期的視点で中国経済を見る上での注目点は、

  第1に国家元首である。国家席の任期は1期5年で、通常2期10年であるが、現在の胡錦濤国家席および温家宝総理は、12年秋の共産党大会で任期を終了することになり、13年から新しい政権に移行する予定である。現時点では1010月の中国共産党第17期中央委員会第5回総会で中央軍事委員会副席に選出された習近平国家副席が最有力候補と言われているが、次の政権に移行した時に政策運営がどうなるのかが1つのポイントである。

 

  第2に5ヵ年規画である。中国は社会・経済政策を5ヵ年規画で運営している。11年から新しい第12次の5ヵ年規画の期間に入るが、今後の中国の経済運営を見る上では、第12次5ヵ年規画がどうなるのかが非常に大きな焦点になってくる。

 

  第3に新(自イノベーション)である。中国政府は内需拡大と合わせて、構造調整を目標として掲げている。ここでいう構造調整とは産業構造の高度化を意味する。人件費を始めとしたコストの上昇や人民元レートの切り上げが続く中、従来のような労働集約型産業が生き残ることは難しく、資本集約型産業あるいは現代サービス業のさらなる振興が喫緊の課題となっているためである。

   その産業構造の高度化に向けてカギを握るのが、中国企業の自創新能力であり、中国は第11次5ヵ年規画において、自創新をスローガンとして打ち出し、独自技術の開発に向けて歩み始めている。06 年2月には自創新の推進に向けた中長期計画「国家中長期科学技術発展計画綱要(0620年)」を公表している。綱要が制定された背景には、自創新能力の強化が、長期的発展を左右するとの認識を中国政府が強め始めたことがある。

 

 綱要では、20年時点で、GDP総額に占める研究開発費比率を2.5%以上、科学技術進歩の貢献率を60%以上、対外技術依存度を30%以下、中国人の年度特許発明量と国際的科学論文引用数が世界トップ5入りすることを青写真として描いている。しかし、第11次5ヵ年規画においては、GDP総額に占める研究開発費比率は1.8%と目標(2.0%)に達しなかった。自創新の政策体系にはさらなる整備が必要であり、また、政策の効果が出るまでにはまだ時間がかかると見る向きが多いが、中国が今後どのように自創新能力を高め、構造調整を進めていくかが注目される。

 

  第4に食糧生産である。中国は08年7月の国務院常務会議で長期的な食糧の増産目標である「国家食糧安全中長期規画綱要」を承認した。綱要には①2020年までに食糧生産量を07年比7.7%増となる年間5億4,000万トンを上回る水準に引き上げること、②食糧自給率95%以上を確保することが目標として盛り込まれた。

 

 この目標設定は、中国の食糧生産状況が楽観視できないことを裏付けている。中国では近年、食糧生産量が微増にとどまっている。温家宝総理は「中国の食糧需給状況は、基本的にはバランスが取れているものの、工業化や都市部の発展、人口増加などにより、耕地面積は減し続けている。水資源不足や気候変動などもあり、このままでは長期的には食糧の安全保障確保が難しくなる」と指摘している。

 

 人口大国・中国にとって、食糧の安定確保は安全保障上、極めて重要な課題だが、現状では、コメ、小麦、トウモロコシなどは、ほぼ100%自給にあり、食糧備蓄も進んでいることから、現時点では供給不足に陥っているわけではない。しかし、短期的にはともかく、中国は中長期的には、①耕地面積の質的な減、②単位面積当たりの収穫量の減、③人口増加(国家人口・計画生育委員会によると、中国の人口は2030年半ばに15億人に達する)など、供給不足の火種となりかねない構造問題を抱えている。

 

 中国が食糧供給において抱えている構造問題は短期間で改善できるものではない。綱要では、こうした問題に対処すべく、食糧増産の具体的な対策を進めていく方針も打ち出されているが、1020年先を見据えた政策の着施が求められている。