金融危機下の中国の存在感
2008年秋、リーマンショックが起きた。発生当初は、この危機は欧米の金融部門の問題であり中国にとっては対岸の火事といったムードもあったが、世界的な需要の収縮がおこり、輸出部門に影響が及んだ。当時経済政策は引き締めが始まっており、中国の实質GDP成長率は07年半ばをピークに既に鈍化が始まっていた。そこにリーマンショックが重なり、08年第3四半期から第4四半期にかけ成長率は前年同期比9.0%から同6.8%へ急減速した(いずれも発表当初の速報値)。
しかし中国政府の成長維持に向けた動きは果断であった。08年11月に4兆元の大型景気刺激策を発表、09年初頭にも短期的成長支持と中期的構造調整を抱き合わせた10大産業振興調整計画を打ち出した。2009年初頭、世論は同年の8%成長は極めて困難との見方に傾いていたが、中央政府は8%前後の成長という看板を下ろすことはなく、結果的にそのことは景気に対する国民のコンフィデンスの維持にプラスに働いたものと思われる。
成長維持最優先の方針は明確で、加工貿易制限・禁止品目の拡大や増値税還付率の引き下げといった加工貿易への締め付けも棚上げされた。小型車の車両購入税減税、農村部への家電普及策「家電下郷」、家電の買い替え促進策「以旧換新」など、あらゆる政策努力が、成長の維持に向けられた。2009年第1四半期こそ6.1%成長(速報値)と停滞が続いたが、同年5月の生産指数の発表で回復基調の持続が明確となり、景況感が劇的に好転した。4~6月期のGDP成長率は7.9%(速報値)にまで高まり、8%成長への安心感が広がった。結果的に09年は文字通りの「V字回復」なり、成長率は8.7%となった(その後9.1%→9.2%に上方修正)。10年を迎える頃には成長に対する懸念は後退し、景気論議の焦点は金融政策や公共投資に関する出口戦略の行方に移っていた。