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1.外資利用の質の向上を目指す8大方針

 

  2006年3月の全人代で発表された第11次5ヵ年規画(200610年)で、中国は「外資利用における質の向上」の方針を打ち出した。この方針は、外資選別強化の動きとして注目を集めた。これに関し商務部は06年8月、「外資の積極的かつ有効な利用を継続、外資利用の質の向上に注力」と題したリポートを発表した。

 

 リポートはそれまでの外資導入を、「経済発展の促進、建設資金の補てん、産業構造の調整と改善の促進、就業機会の創出と人材育成、国家税収の増加、対外貿易の発展の加速、経済的な国際競争力の向上をもたらした」と評価した。

 

 一方で、問題点として以下の3点を挙げた。まず、①外商投資の産業構造をさらに改善する必要がある。外資導入に占めるサービス分野の割合が極めて低いため、ハイテク産業、現代サービス業、現代農業、省エネ・環境保護産業の占める割合をさらに高める必要がある。次に、②外商投資は地域に偏りがあり、中西部地域の外資導入額が占める割合はわずか13%にすぎない。この状況が続けば、地域発展の不均衡がさらに拡大する。最後に、③一部の地域では投資誘致の際に、規模を重視し、質を軽視する状況にある。外資とGDPの増加を追及するあまり、盲目的な外資導入や地域間の悪質な競争、コストを考えない投資誘致、国家の関連規定に違反した優遇政策の乱用などがみられる、とした。

 

 リポートは今後の外資政策の方向性について、「グローバルな戦略意識を確立し、国際的な経済技術協力と競争に積極的に参与し、対外開放水準を全面的に引き上げ、外資利用の質を高めることにより、国内の産業構造や技術水準を向上させ、地域間の協調発展と企業改革を促進し、自創新能力を向上させる」との見解を示した。そして第11次5ヵ年規画が示す「外資利用の質と水準の向上」のため、8つの方針を示した

 

               外資利用の質と水準の向上のための8大方針

 
 1.積極的かつ有効な外資利用という方針を堅持し、外資導入政策の連続性と安定性を保持する。基本国策である対外開放政策を継続し、対外開放水準をさらに高める。積極的かつ安定的に内外資企業の所得税を調整し「両税統一」を実行する。中国の投資環境の国際競争力を保持し、海外投資家の信頼を高める。

 

 2.外資を利用して、産業構造の改善を進める。国家の産業構造調整の方向性と経済発展の需要を連携し、「外商投資産業指導目録」を適時改訂する。ハイテク産業、先進的製造業、現代サービス業、現代農業、環境保護産業への外資導入を重点的に奨励する。高付加価値、高輻射力、低エネルギー消費、ハイエンド産業などの外資プロジェクトの導入を重要視する。外資系企業による原材料・部品の現地調達強化を奨励する。高汚染、高エネルギー消費、過剰設備産業への外資プロジェクトの導入を厳格に制限する。サービス産業の対外開放を着実に推進し、多国籍企業の地域本部、R&Dセンター、調達センター、研修センターの設立を奨励する。

 

 3.外資導入政策を改善し、外資利用の質をさらに高める。国際的な産業移転の機会をとらえ、中国の実情に合わせて、サービス・アウトソーシング業に対する税収優遇政策の制定などにより、中国を多国籍企業のサービス・アウトソーシングの重要な引き受け先とする。貿易成長方式を転換させ、輸出構造を改善し、サービス輸出を拡大させ、より多くの就業機会を創出する。

 

 4.外商投資の地域配置を改善し、地域経済の協調発展を促進する。東部地域に資金と技術集積度が高い外商投資プロジェクトを積極的に誘致し、発展が成熟した労働・資源集約型産業、加工貿易の中西部への移転を奨励する。中西部地域、東北などの旧工業基地の外資利用に対する支援を強化する。「中西部地域外商投資優位産業目録」を適時改訂し、中西部地域での国家級経済技術開発区の建設や、東部地域の外商投資企業の中西部地域への再投資を支援する。中西部地域、東北などの旧工業基地での対外開放の分野と範囲をさらに拡大し、外資参入条件を適度に緩和する。

 

 5.さまざまな形式での協力を展開し、外資による技術移転効果を最大限に発揮させる。国内企業と外資系企業による技術・研究開発、市場開拓での協力強化を促進する。外資系企業がコア技術を導入することを奨励し、中国の技術創新体系を改善し、導入技術の消化吸収と再創新能力を強化する。

 

 6.新たな外資導入方式を積極的に模索し、国内企業の競争力を向上させる。積極的に戦略投資家を導入し、上場企業の質を高める。競争法体系を整備・確立し、独占禁止法と外資M&A管理弁法をできるだけ早く公布、企業の市場での競争行為を規範化する。創業、建設・操業・譲渡(BOT)などの分野で外資利用を拡大する。条件に合致した外資系企業と国内企業の国内・海外上場を奨励する。

 

 7.投資環境をさらに改善し、外資利用の管理水準を向上させる。「行政許可法」を全面的に貫徹し、法に基づく行政を推進、各地方政府のサービス水準を向上させる。外資系企業と投資家の合法的な権益を保護し、各種の権利侵害行為の取り締まりに力を入れ、法律や行政法規の執行能力を適切に向上させ、多国籍企業の産業技術移転での障害を除去する。外資統計指標の体系を改善し、土地集約利用、環境保護、省エネなどの成果指標を重視し、各地方政府の外資導入を規模重視から質重視へと転換させる。

 

 8.外資系企業の社会的責任に対する意識を高め、企業、社会、環境の持続可能な協調発展を実現する。外資系企業の社会的責任の構築を強化し、法に基づく経営、環境保護の強化、技術移転水準の向上、労働者の合法権益の保護など、外資系企業のプラスの役割を最大限に発揮させる。

(出所)商務部「外資の積極的かつ有効な利用を継続、外資利用の質の向上に注力」

 

2.外資利用の一段の改善に関する若干の意見

 
  中国のGDP成長率は2007年にかけ5年間連続2ケタ成長となり、貿易、投資額も拡大を続けた。2008年には企業所得税法が施行となり、外資製造業への優遇税制の段階的廃止が始動した。また労働契約法も施行され、期限の定めのない労働契約の適用が進むこととなった。加工貿易は、制限品目、禁止品目が徐々に拡大するとともに、増値税還付率が引き下げられるなど、加工貿易基地からの脱却、貿易構造のレ

ベルアップへの動きが次第に強まっていった。
 

  2010年4月、国務院は「外資利用の一段の改善に関する若干の意見」(国発[2010]9号)を発表し、「自ら为体的に良質な外資を選択」し、「引資(外資導入)」を「引智(ソフトの導入)」に結び付けるとの方針を示した。

 
  国務院はこの「意見」の発表に際し、中国は改革開放以来、積極的に外資を導入することで産業のレベルアップと技術進歩を進めてきており、外資企業は既に国民経済の重要な構成要素になっているとの見解を示した。その上で、外資利用の質とレベルを引き上げ、外資が科学技術の向上、産業のレベルアップ、地域の協調的発展などの分野でさらなるプラスの効果を生むよう、5つの方針を示した。

 

「外資利用の一段の改善に関する若干の意見」の概要

 

 1.産業構造の改善に外資を活用する。外商投資産業指導目録を改訂し、対外開放する領域を拡大する。投資を奨励する業種としては、ハイエンド製造業、ハイテク技術産業、現代的サービス業、新エネルギー・省エネ・環境産業を挙げた。他方、これまで同様、「両高一資'高エネルギー消費・高汚染・資源消費型産業(」とレベルの低い過剰な生産能力の拡張プロジェクトは厳しく制限する。

 

 2.中西部への投資誘致に力点を置く。「外商投資産業指導目録」の改訂に基づき、「中西部地区外商投資優勢産業目録」を改訂し、労働集約型プロジェクトを増やす。中西部地区では、環境保護に関する要求を満たす労働集約型産業に関する外資系企業の投資を奨励する。

 

 3.外資投資について、グリーンフィールド型だけでなく、M&Aの利用を進める。また、国内企業には海外資本市場の活用を促し、外資は中国国内で中小企業保証会社の設立やベンチャーキャピタルといった金融ノウハウの導入に役立つようにする。

 

 4.外資利用については、中央から地方への権限移譲を進め、導入に当たってのスピードアップを進める。

 5.良好な投資環境形成していく上で、省レベルの開発区に対し、国家レベルへの昇級や拡張といったインセンティブを与える。

(出所)国務院「外資利用の一段の改善に関する若干の意見」(国発[2010]9号)

 

  2008年秋のリーマンショックをきっかけに、景気の急激な悪化に直面すると、政府は4兆元の大型景気刺激策をはじめとする大胆なてこ入れを迅速に实施したほか、それまで進められてきた加工貿易への制限も棚上げした。さらには企業の経営環境の著しい悪化を考慮し、最低賃金の引き上げも見送った。あらゆる政策努力が成長の維持に向けられた結果、09年半ばには景気の回復基調が鮮明となり、10年に入る頃の中国経済は、経済政策論議の中心が出口戦略の行方に移るまでに復調していた。 

 

  この『若干の意見』が出された背景について、中国の多国籍企業研究の第一人者である商務部多国籍企業研究センターの王志楽研究員は、次のように述べている。


  政府は近年、一部のITセキュリティ製品を中国強制認証制度(CCC)の対象としたり、政府調達で实質的に外国製品を制限するなど、外資排除の動きを強めていた。この動きに終止符を打ったのが、09年12月30日に開催された国務院常務会議であり、その方針を文書にしたものが『若干の意見』である。 

 
  中国は過去に5回ほど外資排除の動きが強まった時期がある。1回目は1980年に国内で初めて外資との合弁でホテルが設立された時、2回目は89年で外資の積極利用が行われた結果インフレや失業が問題になった時期、3回目はアジア通貨危機が発生した97年、4回目はWTO加盟前の01年、そして5回目が06~09年だ。しかし、いずれも最終的には国務院が外資排除の動きを止めており、政府の外資開放の姿勢はこの30年間一貫して変わっていない。 

 

  『若干の意見』では、外資による直接的な資本参加のほか、上場企業への国内外の戦略的投資家の誘導や証券投資などの促進によって、さまざまなかたちでの国内企業、特に国有企業に対する買収活動を促進する方針が反映されている。他方、『独占禁止法』や『外国投資者が国内企業を買収することに関する規定』などで定めた、独占禁止審査を含む安全審査制度確立の加速が強調されており、買収活動が一企業に与える影響ではなく、市場全体に与える影響を重要視している。

 

  3.雇用・賃金情勢

 

 2010年5月から8月にかけ、大連、山東省、長江デルタ地域、珠江デルタ地域を中心にストライキが多発した。在中国日本大使館経済部の「中国の日系企業におけるストライキの発生状況と課題について」7によれば、ストライキは8割以上が独資企業で発生した。発生の原因として、「周辺企業の賃上げによる影響」と「従業員とのコミュニケーションの不足」があった。また最大の問題点として、企業・地域を越える「ストライキの連鎖」が挙がった。ストライキの予防対策として圧倒的多数を占めたのは、「従業員とのコミュニケーションと従業員に対する情報の積極的な開示」であった。

 
  また10年は、9月に尖閣諸島周辺で日本の巡視船と中国漁船の衝突事件が発生し、事件後に日中間で様々なあつれきや一部地域で反日抗議活動が生じた。その影響について、国際協力銀行はアンケートを行った。「中国の政治リスクの顕在化によって、貴社の中国事業はマイナスの影響を受けたと感じていますか」との問いに対し、59.6%の企業は「特に影響はない」と回答する一方、19.2%が「多尐は影響を受けた」、3.4%が「大きい影響を受けた」と答えている。


  賃金動向の1つの目安となる最低賃金は、09年については企業の経営環境の著しい悪化を受け引き上げが見送られたが、10年は大幅な引き上げとなった。

 

  03年以降、日本企業の間で中国が事業展開先国としての評価を落とした理由としては、03年のSARS流行、04~05年の電力不足、05年の反日デモを契機とするチャイナ・プラス・ワン模索の機運の広がりも考えられるが、調査報告に照らして考えれば、賃金の問題が指摘できる。調査報告で中国が事業展開先として有望である理由をみると、「安価な労働力」を指摘する企業の比率は03年をピークに低下の一途をたどっている。

 

  それでも09~10年にかけては、中国の評価が再び高まる形となったのは、「安価な労働力」を有望の理由に上げる企業の割合が低下する一方で、「現地マーケットの今後の成長性」を挙げる企業の割合が高まったからだろう

 

                   4.外資導入に関する最近の動き

 


  国務院(内閣)は2010年10月18日、「戦略的新興産業の育成と発展の加速に関する決定」(国発[2010]33号)を発表し、省エネ・環境保護、次世代情報技術、バイオ、ハイエンド設備製造、新エネルギー、新材料、新エネルギー自動車の7産業を戦略的新興産業として重点的に育成・発展させていく方針を打ち出した。戦略的新興産業7業種がGDPに占める割合を15年までに約8%、20年までに約15%に引き上げること、今後10年前後で、戦略的新興産業のイノベーション能力と産業レベルを世界の先進レベルに引き上げることを目標に掲げた。外資導入との関連についていえば、外商投資産業指導目録の整備を行い、外資系ベンチャー企業の投資や外資による戦略的新興産業への投資を奨励するとしており、外資を活用したイノベーション能力の強化も図るとの方向性が示されている。

 


  11年2月12日、国務院は「外国投資者による国内企業の買収・合併の安全審査制度構築に関する通知」を発表した。香港、マカオ、台湾を含む外国企業が中国企業を合併・買収(M&A)する際に、安全保障上の問題がないかを審査する制度を導入する。

 
  通知は安全審査の対象範囲について、①外国投資者による国内軍需産業とその関連企業、②重点軍事施設周辺の企業と国防に関係する機関、③国家安全保障にかかわる重要な農産品、④重要な資源エネルギー、⑤重要なインフラ、⑥重要な運輸サービス、⑦コアテクノロジー、⑧重要な設備製造などに関する企業へのM&Aのうち、「实質的な経営権」(原文は「控制権」)を外国投資者が取得する可能性がある場合、と定めている。代表的な産業を挙げてはいるものの、対象となるすべての産業が明示されているわけではない。企業が中国企業に対しM&Aを検討する際、審査対象となるのかどうか注意が必要といえる。